最後の中国向けODA CIAJに在任中には中国向けODAの供与も担当しました。中国へのODA(Official Development Assistance)は外務省の管轄する円借款で30年間無利子に近い低利で円を供与するので、その金で開発途上国のインフラ整備のための日本製品を買ってくれというものです。日本メーカーにとっては製品がその国のインフラのデファクトになりますので、ODAが終わっても参加する意義があることになります。中国へのODAは累積で約3兆円の実績がありましたが、当時の中国の経済発展は著しく、もうそろそろODAを必要としなくなっていました。 それでも最新の情報システムを供与しようということで、ITS(Intelligent Transport System、高度道路交通システム)が選ばれました。技術的な事柄ですので外務省から経済産業省の自動車課に協力依頼があり、民間からの協力は本来なら情報通信ですのでNTTになるのですが、中国への海外輸出事業はCIAJがNTTから請け負っていましたので、CIAJのITS委員会が担当することになりました。このような経緯で自動車課のキャリア官僚のご指導に従い作業を始めました。ITS委員会からは日立、富士通、NEC、沖電気の4社が参加することになりました。高度道路交通システムのODAですので、自動車メーカーの参加があった方が良いだろうということで各社に説明に行きました。ホンダは社是で車作り以外はやらないとのことで断られました。日産にも行きましたが、当時はゴーンがコストカットを断行していましたので、余計なことはやらないと断られました。トヨタはさすがに慎重に対応してくれて取締役会にかけてくれましたが、誰も賛成しなかったそうです。中国の国家政策は共産党の国家発展和改革委員会が握っていますので、外務省から連絡して中方の参加大学を決めてもらいました。ITSに関しては北京航空航天大学の教授グループ、IPV6のルータに関しては精華大学の教授グループが指名されました。中国では大学が研究所や行政法人を兼ねており、北京航空航天大学はロケット、航空機の開発、交通管理や宇宙航空士の訓練をしています。 中国向けODA、ITS実証実験(案) 日本側としては当時出来上がっていたETCを提案したかったのですが、中国側としてはインフラ投資が莫大になるここから可能性はなく、比較的容易に構築できるプローブカーシステムを提案しました。高速道路、一般道路を走っているバス、タクシーなどから位置情報を送信し、情報システムで累積されているビッグデータと統計処理して、地図上に渋滞情報を作って、IPV6ネットワークを介して商用車のカーナビに表示できるようにします。ドライバーはカーナビで渋滞情報を知り、他のルートを選ぶようになるので渋滞解消になります。 ODAを供与するには実証実験をして情報システムの有効性を証明します。最初に日本側から中国の各関係機関に出向きシステム説明をして参加協力を依頼します。中国側はシステム設計に必要な道路計画、地図情報、渋滞情報をまとめた報告書を作成します。次に中国から考察団を日本に招聘してITSの展開状況を視察してもらいます。国交省の国土技術総合研究所、警視庁交通管制セター、東京都交通局、・・・などを視察し、メーカー訪問をして情報交換します。次に提案したシステム機器を日方から中国に持ち込み、中方と協力して実証実験をして成果を確認してから政策提言に至ります。 考察団が経産省を訪問した時に、担当官が当時の日本でのETCの普及状況を説明し、自動車にETCを搭載することはドライバーの自主判断なので普及に苦心しているとの発言がありましたが、中国側から共産党の支配する国ですので新システムを採用するとしたら命令すればすぐ普及するとの反応があったのが印象的でした。このような過程を経て実証実験の段階になりましたが、2003年当時の中国SARS(重症急性呼吸器症候群)の沈静を待ってから始めなくてはならず、何となく先行きに不安はありました。案の定、精華大学が行った日方のIPV6ルータの評価が低かったこと、プローブ情報加工システムのプログラム提供を日方が拒否したことから先行きが怪しくなりました。 中方からは国家予算はまずは高速道路建設に割り振るべきだとの意見が出て、日方からは経済発展が著しい中国に何故ODAが必要かとの意見があって混乱が生じました。結局規模を縮小して実証実験は行われ、成果は2010年の上海万博で展示されました。2006年には外務省から中国向けODAの終結宣言がホームページに掲載されています。 |