はやぶさ 私は2005年2月にNECを退職し、CIAJ出向を解除されてからは宇宙航空研究開発機構(JAXA)に勤務しました。JAXAではロケット、航空機の開発、運用を手掛けていますが海外でロケット使う気象観測とか海外との技術協力などの輸出業務は東大出の先生方が手探りで輸出許可を申請していましたが、危険な状況でした。私が赴任して、輸出管理のための情報管理システムを構築しました。いま当時を回想してみると、いろいろありましたが、何といっても米国製品の再輸出規制には悩まされました。 JAXAでは2003年12月に H-IIAロケット6号機の失敗により、しばらく打ち上げが停滞し、2005年2月になってようやくH-IIAロケット7号機にて運輸多目的衛星「ひまわり6号」(MTSAT-1R)を打ち上げました。しかし打ち上げ用ロケットが不足していましたので光衛星間通信衛星「きらり」(OICETS)は2005年8月にカザフスタンのバイコヌール基地からソ連時代から残っていたドニエプルロケットにて打ち上げることになりました。OICETSはESAの先端データ中継技術衛星「アルテミス」との間で、光衛星間通信をすることになっていたので打ち上げ時期を遅らせる訳に行かなかったのです。OICETSの輸出許可はJAXAで取得しましたが、衛星には米国製軍事機密品を多く使っています。相模原の宇宙研の先生方は心配だから予備部品として現地まで持ってゆきたい、さらに打ち上げ前の確認をするので実験設備を持って行きたいというのです。ここにも米国製軍事機密品がつかわれていました。ロシアやカザフスタンには米国の再輸出許可は当時の国際関係からして取れそうもないので困りました。仕方ないので先生方を激励して事前準備に自信をもって、あるいはメーカーを信頼して打ち上げに臨んでもらいました。結果的に12月に史上初の光衛星間通信に成功しています。 運用終了小惑星探査機「はやぶさ」 将来の本格的なサンプルリターン探査に必須となる技術を実証することを目的とした、工学技術実証のための探査機である。2010年6月13日、小惑星「イトカワ」の表面物質搭載カプセルを地球に持ち帰ることに成功した。 はやぶさ初号機は大変な苦労をして小惑星イトカワの岩石を採取して地球に戻ってきました。はやぶさはJAXAだけでなく日本中の多くの科学者が参加して作ったもので、実に素晴らしい発見や貢献をして感銘を与えてくれた衛星です。地球へ戻るには大気圏を通過するときに焼かれてしまい、岩石を採取する仕組みとサンプルを含むカプセルとなってオーストラリアの砂漠に落下します。このカプセル全体が米国の輸出規制対象の軍事機密品でした。もちろん、日本に輸入してはやぶさに組込むに当たっては、事前に米国商務省の輸出許可を取得していました。しかし、オーストラリアに落下するということは日本の法令では、宇宙に打ち上げたモノであっても再輸出に該当します。はやぶさの栄誉ある帰還にトラブルを起こさせないために、戻ってくる前に米国機密品の再輸出許可申請することにして米国商務省に問い合わせました。米国法では宇宙に打ち上げたモノは輸出ではなく、従って宇宙から戻ってきたモノであっても対象外であるとの回答を得て落着しました。 はやぶさ2は2020年の後半に小惑星リュウグウから地球に戻ってきますので、オリンピックが次年に延期になり、新型コロナウィルスの蔓延で停滞している日本に大きな話題を提供してくれると思います。イトカワとリュウグウは同じような岩石の小惑星ですが、大きな違いがあります。イトカワは初めは周囲20キロより大きい800度以上に熱せられた物体がバラバラになったものの破片であることが分かっています。太陽系ができるときに、宇宙の塵が集まって母天体のようなものができて、その中は800度以上で全部溶けた状態だった。それが冷えてゆく過程でバラバラになって、その一つがイトカワであって、今後も壊れていって、いつか消滅します。はやぶさ2はリュウグウに行きましたが、リュウグウの中は溶けていませんので、太陽系の塵が集まっただけの小惑星です。これで太陽系の2種類の原材料が手に入りますので、太陽系惑星の素成分が明らかになります。 私はJAXAの東京事務所に勤務していました。東京駅横の北口ビルに東京事務所はあり、同じく駅前のOAZOビルに宇宙開発情報の展示室を持っていました。それが経費節減で2010年になって事務所のフロア削減をして、私の勤務は筑波宇宙センターに移され、展示室は廃止になりました。それでも当時は職員が約1800人、年間予算が1800憶円ぐらいでした。それが2020年では、東京事務所はお茶の水にあり、職員は約1500名、年間予算は1500億円ぐらいになっています。今年度は新型ロケットH3の打ち上げがあり、はやぶさ2の帰還がありで存在感を顕示して、ようやく研究成果と経営を両立させています。 |