植物から一部の組織を切りだして、成長を調整するホルモンを使って培養すると、ほとんどの細胞が増殖して細胞のかたまり(カルス)ができる。このかたまりにホルモンと養分を与えると、ふたたび完全な個体が出来上がる。すなわち植物のクローン(無性生殖的に増殖し、それと全く等しい形質と遺伝子組成を受け継ぐ別の個体)である。植物の細胞には「全能性」が備わっていて、細胞を切り出してカルスにし、また個体を成長させることを繰返せば、植物は不死になる可能性を秘めていることになる。
植物は有性生殖するが、多くの植物は無性生殖する。ツツジやサツキから挿し木にした小枝は、まず根を作り、新しい芽を出し、葉を作りやがて花をつける成木となる。オオシマサクラとエドヒガンの交配種のソメイヨシノは、自体では種が育たないのが挿し木で子孫を増やすことができる。ヒガンバナなどは球根(鱗茎)で殖える。これらのような植物は全てクローンである。植物の体細胞には分裂限界(寿命)が遺伝的に組み込まれていないので、条件さえよければ、極めて長期にわたって分裂できることになる。樹齢数千年の屋久杉とか樹齢500年のエドヒガン桜のように生育環境によっては相当に長く生きていられるようです。人間の寿命のスケールからみると植物のクローンは無限に近く生きていられるように思えるが、有効なDNA修復が行われないとすると、いずれ死すべき運命にあると思われる。故にほとんどの植物(被子植物など)は有性生殖をし、減数分裂により生殖細胞系列の不死性が保たれていることになる。 植物の寿命 多細胞動物の体(個体)は様々な種類の細胞で構成されています。例えば60兆の細胞から成ると言われるヒトでは内臓、神経、血球、皮膚などで形も機能も異なった体細胞が見られます。しかし、これらの細胞は全て一個の受精卵から派生してきたものです。これが卵割(細胞分裂)を繰り返して個別の道を進み、最初は同じ性質を持っていたはずの細胞が分化して専門化した形態・機能を獲得した細胞になりますが、この過程は普通には後戻りができません。一方、多細胞植物の細胞も受精卵から分化しますが、体細胞を適当な条件で培養すると、初期化のような現象が起こり(脱分化)、細胞分裂を経てもう一度分化させ(再分化)、さらに個体を再形成することができます。植物細胞の持つこの能力を分化全能性と言います。分化全能性は個体を構成するさまざまな種類の細胞のどれにも分化することができる潜在能力です。動物でも植物でも,すべての細胞の起源となる受精卵は,明らかに分化全能性をもっています。次の受精卵につながる生殖系列の細胞も分化全能性を保持しているとみなされます。植物においては、体細胞が分化しても必ずしも分化全能性は失われません。たとえば、ニンジンの細胞から不定胚を経て個体の全部を再生させることが出来ることなどから、植物体細胞が分化全能性を有することを示しています。 動物の場合は、初期発生の間に個々の動物細胞の分化能力は次第に限定され、分化全能性は失われるとされています。植物細胞(部位は問わない)を栄養成分と特定の植物ホルモンを付加して培養することによって脱分化させると、カルスという未分化の細胞群が得られる。このカルスからは完全な一個体を形成することができる。このように植物の体細胞には分化全能性があるということは、分裂限界(寿命)が遺伝的に組み込まれていないので、条件さえ整っていればいくらでも長寿になりうることになる。条件とは光エネルギーが絶えることなく光合成により化学エネルギーに変換できること、根が地中に伸びて、水分や栄養成分を吸収できていれば成長は持続されます。 植物の再生現象は分化全能性の馴染み深い事例です。剪定された街路樹はやがて春になり温暖になると傷口周辺から多くの新芽を出します。挿し木や挿し葉法では,植物体の一部を切り取って土や水に挿しておけば、暫くすると切断面からは根や茎葉が出てきて新たな個体となります。 ただし、上記したように環境条件が整っている必要があります。剪定した庭木などは春になり日当たりが良くなると成長を伴いながら、傷口周辺からの枝葉の伸び方が順調になるので、それを見越して多めの剪定が必要になります。挿し木については、分化全能性を促進させる植物ホルモンなどを施せば成長が早まります。 |