地球上には原核生物(バクテリアなど)と真核生物(動物、植物など)がいて前者には寿命が存在せず、後者には寿命を持つものと持たないものがいる。生物の寿命は授精に始まる自己同一性の継続期間であり、自己同一性は無性生殖によって維持され遺伝子(DNA)のコピー(転移)の継続により保たれている。寿命を持つ生物は授精に始まり個体または細胞の死によって終わる時間枠の中に有性生殖による子孫を作る生存システムを作っています。このシステムにおいて重要なのは有性生殖開始までの時間であり、そのあとの生存期間は二義的な意味しか持たないことになっています。ただし性行動が一回限りでなく何年にもわたって継続的に起こる場合や、性行動は無くても子孫の養育・保護を要する社会的動物では二義的な期間の持つ意味が違っているといえます。 バクテリアなどにはDNA量、遺伝子数が少なく、細胞が様々な役割をもつ細胞に分化できず、全て同じことしかできないが分裂は続けることが出来るから寿命がありません。バクテリアでも分裂を繰り返すうちに細胞のDNAの損傷が生じるが、損傷速度より早く分裂することにより回避しているようです。有性生殖をする生物には寿命がある。有性生殖は減数分裂で遺伝的多様性を増加させるとともに遺伝子の修復する機能があります。対合する時の相同染色体は遺伝子を交換し、傷ついていない相方の染色体のDNAを修復する。減数分裂を起こし授精して受精卵となった細胞は若返って寿命を回復する。真核生物はDNA量が多く細胞が複雑になっており、受精卵からは細胞分裂により同じDNAを持つ細胞が分化により肝臓、筋肉といった異なる機能を持てるようになっているが、これら幹細胞にはプログラムされた細胞分裂の回数に限界(テロメア)があり、やがて細胞死に至るので寿命があることになります。一方で分化される機能に生殖細胞もあるが、やがて受精卵になり若返ることから寿命はないことになります。 高等動物では骨髄の造血組織、皮膚の下組織、消化管の上皮組織などの幹細胞は成体になっても分裂を繰り返し新しい血液の細胞や皮膚や上皮を作っている。肝細胞やリンパ球などは分化した細胞であるが、必要とあれば分裂できる。それに対し、神経細胞や心筋細胞などはそれ自体が若い時は分裂性の細胞であったが分化して神経細胞や心筋細胞になってしまえば分裂機能を失います。従って補充が効かないので細胞自体の寿命は長いことになるが損傷すると致命傷になります。肝細胞から作られる赤血球の細胞や皮膚の細胞なども非分裂性の細胞であるが100〜120日と寿命が短く老化した細胞は捨てられて幹細胞が新しく作って補充されている。これら幹細胞には寿命がプログラムされており、人間では50回ほど分裂すると寿命が尽きてしまい、補充のきかない非分裂性の細胞にも寿命がプログラムされているようであり、これらが人間の最大寿命を決めているようです。 高等動物の体は分裂性の細胞と非分裂性の細胞でできているが、分裂性の細胞は生殖細胞を除いては分裂回数に限界がある。これがヘイフリック限界(染色体末端にあるテロメアの短縮限界)と呼ばれていて、ヒトの場合は約50回であり、50回分裂を繰り返すと細胞はアトポーシス(細胞の中に組み込まれた細胞死のメカニズム)で死んでしまう。ニューロン(神経細胞)や心筋細胞のような非分裂性細胞は、それらを作り出す分裂細胞が成長とともにほとんどなくなり、補充がきかず最大寿命で約120年と言われており、ヘイフリック限界とほぼ一致する。このようなことを生殖細胞の不死により生物の種の保存を担保し、アトポーシスで個体や体細胞の有限性はあるが ,複雑で様々な可能性のあるシステムを構築することができているとすれば、高等生物にとって寿命があるのは自然界の仕組みであるしか言いようがない。 このようにして最大寿命は決まっているとして、最大寿命を妨げる要因はたくさんあるようです。肝細胞の分裂回数は決まっているとして、分裂間隔が短ければ早く死んでしまうことになる。皮膚細胞や血液細胞の損傷が激しければ、これらを供給するために幹細胞はより早く分裂しなければならず在庫が減ることになる。ニューロンや心筋で損傷や老廃物の蓄積するスピードが速ければ寿命は早まることになる。好ましい食生活やメンタルのストレスを軽減がこれら不良要因の抑制になることを心得ておかねばなりません。 |