豪族居館

 古墳時代では群馬県は毛野（けの）、その後は上毛野（かみつけの）と呼ばれていた。
古墳時代の前代に当たる弥生時代の群馬県地域を見てみると、多くの人々が暮らしていたのは、榛名山の山麓部や利根川とその支流をさかのぼった山あいの地であったことを遺跡の分布が教えてくれる。それが、古墳時代に入ると、 一気に平野部へと生活の場を広げていく。当時の人々の生活基盤は、稲作を中心とした農耕にあつたわけであるから、平野部への大展開は、そのまま平野部の大開発がぁったことを物語っている。当地における弥生時代までの農業は、小河川や湧水などの自然の灌漑を利用した小規模経営であったことが、平野部に広がらなかった理由と考えられる。というのは、平野部を水田化するためには、人工的な大規模な灌漑を必要とするからである。これが可能になったことがヽ古墳時代になって平野部に遺跡が急激に広がっていったことと関係していると思われる。 おそらく、現在の群馬県で見られる水田風景に近いものが古墳時代には見られるようになったと言える。
群馬の遺跡４――古墳時代��
東国屈指の有力地域ｐ12
昭和十年に群馬県内一斉の古墳分布調査が行われた。その結果は『上毛古墳綜覧』という報告書にまとめられている。 その本によると、当時八千四百二十三基が数え上げられた。その後、現在に至るまでの間、発掘調査や現地踏査により新たに知られるようになった古墳も数多くあり、今後もまだまだ追加されていくことは間違いない。実際の古墳の総数は一万三千基以上にのぼるものと推測されている。 古墳の数の多さもさることながら、そのうちに前方後円墳をはじめとする大型古墳が数多くあることも、この地域の特色として注意しておく必要がある。加えて、墳丘の周囲を取り巻く埴輪が飛びぬけて充実している点や豪華で豊富な副葬品も目を見張るものがある。しかも、この特徴が古墳時代の全期間を通じて一貫している点が注目される。東国(関東地方)、さらには東日本屈指の有力地域で,あり続けたことを物語る。 それでは、なにゆえに群馬県の地域東国では優勢だったのだろうか。
山と川の恵み
古墳づくりはお金のかかる話である。全国的に見ても古墳数の多い地域であったということは、地域の経的基盤がいかに強力であったかの証しったと言えるだろう。当時の生業の基となっていた農業基盤の優劣のカギを握っていたのは、土地条件いかんであっことは間違いない。その観点から群馬地域の地理的条件を見てみるならば、非常に恵まれた条件にあったことがわかる。すなわち、その背後に二千メートル級の山々が連なり、利根川をはじめとする河川は肥沃な土壌と豊かな水を平野部へと供給していた。そのため、古墳時代に入り平野部を利用した大規模な農業が始まると、時を得たりとばかりに急速に有力化していくことにつながったのである。関東地方の他地域にくらべても優勢であった背景として、このような恵まれた地理的条件を外すことはできない。
東山道の要衝
律令制の上野国(群馬)は東山道に属していた。上野を起点にしてみると、西へは信濃(長野)、美濃(岐阜)を経て京へと通じ、北へは下野(栃木)から陸奥へと通じていた。公式のルート(「東山道駅路」と言った)として整備されたのは七世紀のことである。ただし、古墳時代にはその母胎となるようなこれに近いルート(仮に「古東山道」と呼ぶ)が成立し、大和政権と関東。東北を結ぶ最重要ルートとして機能していたと思われる。その場合、上野の地域が関東・東北へ入る玄関口になっており、重要拠点になったわけである。 ところで、古東山道が重視されるようになったのは、馬の登場が関係している。馬が普及し広く利用されるようになったのは五世紀後半のことである。これにより、陸路で近畿地方と関東。東北を結ぶことが可能になったわけでぁる。その要の位置にある群馬県の地域は一段と重視されるようになっていったのである。 群馬県の古墳
平成24年から5年をかけて県が実施した古墳総合調査により、県内に1万3249基の古墳の存在が確認されました。このことから、群馬は東日本最大の古墳大国であることが分かります。 　古墳はおよそ3世紀後半から7世紀にかけて造られた、地域の有力者などを葬る墳墓のことで、古墳の築造時期により、その形や大きさなどが変遷しています。 　群馬には、全長210メートルと東日本最大の規模を誇る天神山古墳（太田市）をはじめ、大型の古墳が多数あります。全長200メートル以上の前方後円墳は、西日本では京都、大阪、奈良、岡山、東日本では群馬にしかありません。また天神山古墳は、ヤマト王権の大王（おおきみ）の古墳と同じ設計図を使っていたと推定されています。このことから、当時、上毛野国とヤマト王権が密接につながっていたことがうかがえます。 　中央集権を強力に進めるヤマト王権の意向もあり、7世紀に入ると前方後円墳は造られなくなりましたが、方墳や円墳などは造り続けられました。また仏教思想が浸透するにつれ、権威の象徴は古墳造りから寺院建築に移っていきました。
豪族居館とは
古墳時代になると、各地の首長・豪族が自らの財産を守るための空間を設け、柵や溝で区切ってその中に居所や祭祀場、倉庫などを設けるようになります。 弥生時代の環濠内集落に似ていますが、古墳時代の居館は首長やその身内、上位者のための区画で、集落から離れた場所に特定区画として設けられている点が異なります。 初期の居館は区画内に、居所、祭りごと（政治）の場、倉庫、手工業生産拠点などを包含したものでしたが、クニの力が大きくなり権威付けや聖域化のために、居所、祭りごと、祭祀場を分離するように なっていきます。 王の居館の最初の例は、昭和56年に群馬県の三ツ寺�軌篝廚任后Ｋ戮飽呂泙譴森�大な敷地の中に、さらに柵で囲まれた大型建物をはじめ多くの建物が整然と並んでいました。 大阪府立弥生文化博物館が催した平成14年秋季特別展「王の居館を探る」では次のように「居館」を定義しています。王の居館の特徴は；
　１．堀や策で区画された特別な空間である
　２．区画の平面形は方形ないし長方形が多い
　３．区画内には建物がある
　４．区画内の建物や特別な施設は、王の生活の場や政治の場、まつりの場、手工業生産の場など、 役割に分かれている
　５．王の権威を表す道具やまつりの道具が出土する
　６．存続期間が短い
などが挙げられています。
古墳時代の集落
古墳時代に入ると、弥生後期の防禦性の強い集落は完全に姿を消し、微高地の上に５〜６棟で一つのまとまりを持った集落が一般的になる。農業・土木技術の進展とともに集落の数は増加するが、分散化・小規模化の傾向が強まる。一方、支配者たちは一般農民から隔絶した場所に掘ったて柱建築の居館を築き、倉庫に富を蓄積していた。